【 電脳雑記帳 】

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◆2005/5/27 発売

■エロゲ:『英雄×魔王 1stインプレ』

英雄×魔王』 \9,240(税込) 制作:エスクード/有限会社エレメント

剣と魔法、人と魔物が相争う世界で、ひとりの若き魔王が人間世界の制覇に乗り出した。彼の名はフェルザー。人間の卑しさを憎む彼は、世界を恐怖によって覆い尽くそうとする。率いる軍団は、他の魔族を孕ませて作り上げた自らの子供達だ。他の魔族達もフェルザーと争い、ある者は殺され、ある者は軍門に下っていく。侵略し繁殖を繰り返すフェルザー軍と、それを迎え撃つ人間達との世界を賭けた戦いはいずれの勝利で幕を下ろすこととなるのだろうか?

『英雄×魔王』は、世界支配を目指すフェルザーとなって人間や魔族の軍と戦い、版図を広げていくことを目的とした18禁シミュレーション&アドベンチャーゲームです。


■グラフィック・演出について

 登場人物が多いのですが、キャラのかき分けがけっこうチャンとしていたのは驚きました。主要キャラはポーズバリエーションも複数用意されていましたし、デザイナーの苦労が偲ばれます。イベント絵は、エロシーンに重点的に割り振られているのは素晴らしいのですが、回想数とCG枚数を比べると判るとおり、シーンひとつあたりの枚数不足はどうしても現れてしまっています。Hシーンの前半が丸々メッセージだけで進行するのも珍しくない状態なのは、正直言って褒められたモノではないでしょう。会話画面を工夫するなど、グラフィッカー個人の技量に頼らない回避策を検討して欲しかったところです。イベント絵で特徴的だったのは、目パチアニメーションがあったこと。些細な演出ですが悪い気はしませんでした。エロ絵的には中出し描写が多いのが特徴と言えば特徴でしょうか? 塗りのクオリティも悪くなく、グラフィック面で不満を覚えることは少ないでしょう。

■ゲームデザインについて

 アドベンチャーパート(会話画面)に関しては、AVGの基本通りの作りなので特筆すべき点はほとんどない。ただ、ここで表示される選択肢が、ヒロインエンドの分岐条件になっているようなので注意が必要だ。基本的には、対象となるヒロインの性格にあった選択肢を選んでいけば良いのだろうが、イベント自体を発見するのに骨を折ることとなるだろう。

 シミュレーションパートは、略奪・破壊・療養・繁殖と侵攻(待機)の五つに加えて英雄討伐の六つが基本となるコマンドだが、これらを実行するためには”魔力”が必要となるのがこのゲームの原則だ。魔力は恐怖値の量に応じて枚ターン回復するが、上限は支配地域を広げないと増えていかない。そのため、序盤プレイは魔力量に応じてチマチマとした戦略を練る必要があるが、この手のゲームの多くがそうであるように、そういったやり繰りをしている頃が一番面白い時期なのも事実だ。

 略奪は占領した地域でのアイテム探索のことだが、中盤までそれほど実行する機会はない。
破壊は魔力の源となる恐怖値の上昇に繋がるので、せっせと上げていく必要がある。
療養は指揮官のHPを回復するので、侵攻の際に利用することが多い。
 繁殖コマンドはある意味このゲームの根幹をなすコマンドで、これを実行することで部下達とHすることができるし、兵達を生産し自軍を強化することにも繋がる。繁殖コマンドは1Tにひとりに対してしか使えないので、計画的な性行為に努めましょう。ちなみに、生まれる兵隊のレベルは母親のそれで決定されるので、強い兵を作りたいなら母親となる指揮官をキチンと育てる必要がある。
 人間側の反撃として、支配地域のいずれかに”勇者”が登場すると、勇者討伐のコマンドが現れる。放っておくと恐怖値が減少するため行動に支障が出てくるから、討伐は必須行為である。でも、自軍の情勢にあわせて若干様子を見ることも時には必要かもしれない。放っておいても敵戦力が増強されることはないし。
 侵攻を行うと、そのターンは終了し、侵攻先に敵がいた場合は戦闘となる。

 バトルパートは、本作独自の戦闘システムで構成されている。指揮官とそれに応じた駒(他の指揮官か兵隊)を配置し、同様に配置された敵に1対1の勝ち抜き戦を挑んでいくわけだが、この対戦順がシリンダー状に回転して決められていくのだ。駒の入ったシリンダーを、左右クリックで1駒分回転させ、敵にぶつける。敵も同様に出現するので、次に戦う敵がシリンダーのどれであるかは二分の一の確率。ユニットには「3すくみ」を実現する要素が設定されているので、その強弱関係を見極めながらの駆け引きが存在するのが、面白い。単にユニットのレベルだけが、戦闘の勝敗を確定させているわけではないのだ。最終的には「3すくみ」をユニットの個体能力で覆すことも可能ではあるが、兵種の違い、編成順の違い、そしてシリンダーの回転方向の違いによって、プレイヤーが「確実な最善手」をなかなか作り出せないようになっているのは確かだろう。これを「面倒くさい」と感じるか「よしやってやるそ!」と感じるかは、プレイヤー個々の嗜好に依るだろうが、とりあえず1stプレイにおいての私は、ゲームとして面白いと思っている。

 ただ、ヒロイン分岐の条件を、イベント重視な作りにするのは勘弁してくれ、というのも正直な感想だ。必須イベントを起こすための苦労は、それ単体では面白さに直結しないのだ。できればヒロイン決定に対して、主人公側からアプローチを掛けて分岐させられるようにしてほしい。例えばこんな形だ。
 「人間を心のそこから憎んでいる」ヒロインがいるとする。そのヒロインに対して主人公が告白に該当するようなことをする。しかし、これまでのプレイスタイルが人間に優しすぎたため、そのヒロインには振られる。
 こういった流れなら、プレイヤー的に何が悪かったのか一発で判るので、やり直す際の取っ掛かりも掴みやすい。しかし、本作は隠されたイベント探しが主流となるので、ぶっちゃけ面倒くさい。「時折みょうなイベントがあちこちで起きる」というのは、同じゲームを複数回プレイさせる上で、プレイヤーを飽きさせないために有効なのは確かなのだが、そこと攻略要素は分離して考えてくれたほうが、最終的なプレイヤーのモチベーション維持に繋がると、私は思っています。

■ストーリー/テキストについて

 主人公の行動原理に対する説明が、ことごとく後出しな構成になっているため、作品のもつコメディタッチな部分と魔王として人間に残虐に当たる部分とに、私は違和感を覚えてしまいました。途中途中のモノローグでそれと知ることはできたのですが、少々煮え切らないというか、後出しにする意義があまり感じられなかったのです。確かに、物語性のみをみれば、主人公の過去を序盤伏せておいたほうがドラマティックになるのは判らなくもありません。ですが、プレイヤーである私が主人公として決断を下す際に、意識の乖離をその都度感じてしまう構成は如何なものでしょう。

 とはいえ、その点を除けば、本作のストーリーが織りなす雰囲気は悪くない。敵対者と味方とでハッキリ扱い差が出る主人公と、彼の部下達が醸し出すアットホームな雰囲気は、やもすると殺伐一辺倒になりそうなストーリーに歯止めを掛けていました。人と見ればバッサバッサ殺していきますからね。いくら自分が魔王とはいえ、そればっかりではゲンナリしてしまいます。ただ逆に言えば、人間大虐殺&れいーぷ万歳な雰囲気を本作に求めていた人には、煮え切らないストーリーかもしれませんね。(そういったシーンでは選択肢がでることもあるので、極悪魔王として君臨するエンドもあると予想できますがあんまり極悪非道って感じのエンドはなさそう。ハッピーらしいハッピーもなさそうですが...)

■エロについて

 エロの対象となるのは、自分の部下達と、ふたりの女英雄です。私はまだ英雄達とのエロは見ていないので、この感想は部下達とのエロのみに限定します。

 部下達とのエロは、兵力増産に繋がっています。それは即ち「ゲームの戦略部分」に直結する行為なわけですので、いくつかの危険性を孕んでいます。要するに、ゲームを進める上で「濃厚なエロシーン」を何度も見せられるのは勘弁と思われる危険性なわけですが、本作ではそれを巧く回避しているように、私には思えました。それは、Hシーンを、「イベント的H」と「システム的H」とに完全に分けきったことです。「イベント的H」は初回のHと、特定の条件が満たされた際にのみ発生する、それなりにボリュームのあるHのことで、端的に言えば「オカズ用」です。「システム的H」は、絵1枚と1行の(”俺はXXを孕ませた”というような)文章のみで構成されているので、戦略を練っているプレイヤーの思考をほとんど阻害しません。ゲーム性の高いエロゲでは、「エロが邪魔だ!」という、本末転倒な問題が立ち上がることが多いのですが、本作の取り組み方はその解答例といえるでしょう。ストーリーを進めていく上でも、次々にH対象が増えていくことが、モチベーションの維持に大きく貢献していたのも、忘れてはいけない点でしょう。

 しかしながら、「オカズ用」のエロパートが必ずしも実用性に耐えうるかというと微妙なところは、別の問題でして……。前述したとおり、イベント絵の枚数が少ないので、テキスト面でのエロ表現に期待したかったのですが、エロ描写はあっさり系の部類に入り、また声優の台詞頼みなシーンも多く、十分なエロを享受できたかというと不満は残ります。とはいえ、メインヒロイン級のエロは、連続ラウンドHなど趣向や内容に凝ったモノも見受けられるので、及第点はあげてよいかと思っていますから、今後はより濃くて使えるエロへと向上してくれることを期待します。

■現在の評価

 SLGパートのゲーム性は、初回プレイ中の面白さの提供には成功していました。勝つための戦略を練り、戦場では編成と先読みを駆使して敵を屠っていく喜びは、なかなかのモノです。
しかしながら、ヒロイン分岐条件の発生が少々面倒くさいので、のちのちこのゲーム性の部分が面倒くさくなってくるのは目に見えています。プレイデータが引き継げるのでそれが軽減されるという向きもあるかと思いますが、そうなると、ゲーム部分そのものに意味が無くなっていくこととなるでしょう。複数回プレイに対して、本作のボリュームは重すぎる嫌いがあります。ヤリコミ要素を用意していただくのは大いに結構なのですが、本作がエロゲである以上、エロを求める意欲を、ゲーム部分が削いでしまうようなことがないように、ゲームデザイナーには細心の注意を払って欲しいと思うのでした。

 とりあえず、現状の評価点は78点。英雄達を捉えてからの展開次第では、更なる点数アップもあり得ると思っています。

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